(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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***  天莉(あまり)が母親と電話で話した翌日。  (じん)に今週末実家へ来るよう言われたと話した流れの続き。 「あの……急に日取りが決まってしまいましたが、高嶺(たかみね)常務、お仕事は大丈夫なんですか?」  朝食の手を止めて、汁椀を手にしたまま問い掛けた天莉に、尽が静かにこちらを見詰め返してきて。  天莉はそれだけでひゅっと心臓がすくみ上がってしまう。  今朝は、以前尽が好きだと言っていた根菜――玉ねぎ、ジャガイモ、ニンジン――の味噌汁と、鮭の塩焼き、小口ネギをたっぷり入れた出汁入りの卵焼き……なんていうザ・和食なメニューが食卓に並んでいる。  ご飯を白米ではなくもち麦やヒエ、アマランサスなどが入った雑穀米にしてみたのは、尽に少しでも栄養バランスの整った食事をしてもらいかったからだ。  そんな色とりどりの雑穀米が入った茶碗を手にしていた尽が、それを食卓に戻す(かそ)けき音にさえ、天莉はビクッとして。  眼鏡の奥。  出来の悪い生徒を見詰めるような尽の視線が物凄く痛いではないか。 「天莉。昨夜提案した件だが、普段から意識して練習しないと、いつまで経っても出来るようにはならんと思うぞ?」 「だって……」 「だって? 知ってるかね、天莉。『でも』や『だって』は仕事が出来ない人間や、最初から努力する気のない人間が使う言葉だ。――天莉は違うよね?」  俺の、のところを殊更(ことさら)強調するように言って、「さぁ」と(うなが)された天莉は、蚊の鳴くような声で「じ、ん……さん」とつぶやいた。  これでも天莉的には目一杯譲歩したつもりだ。  なのに――。
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