(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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 (じん)はスッと目を細めると、「『さん』も要らないって言ったよね?」とスパルタをやめてくれる気配がない。  その言葉に再度「でも」と続けようとした天莉(あまり)は、「ん?」と尽に見つめられて、その言葉を慌てて飲み込んで。 「じ、ん……」  やっとの思いでそう呼びかけたのだけれど。 「うん、よく出来たね」  途端嬉しそうに微笑まれて、やたらと照れ臭くなってしまう。  そう。尽は天莉の実家へ行くに当たって、天莉に自分への呼び掛け方をどうにかすべきだと言い出したのだ。 「キミはいつまで夫になる男を苗字と役職名で呼ぶつもりなの?」  そう問い掛けられた天莉は、グッと言葉に詰まったのだ。 「俺も家に帰ってまで会社の中みたいな呼ばれ方はされたくないし、そもそも結婚したら天莉も〝高嶺(たかみね)〟になるんだがね? 分かってる?」  そう続けられて、何も言えなくなってしまった。  以来、会社以外で〝高嶺(たかみね)常務〟と呼び掛ける度に先のようなやり取りがあって。  尽はこの点に関しては一切妥協するつもりはないらしかった。 *** 「(たか)み……、じ、ん……はうちの実家へ行くの、緊張とかしないの?」  ――ですか?  と続けたいのに、『せめて親御さんの前でくらいは、敬語も外せるといいね』などと追加要求をされた天莉は、実家へ向けて移動中の車内でも絶賛喋り方の練習中。  逆にギクシャクしておかしいのでは?と思うのに、何故か尽は天莉に砕けた口調で話されるのが相当嬉しいらしく、天莉が頑張るたびにふっと身にまとう空気が柔らかくなる。  それが、天莉の心をキュッと甘く(うず)かせるから。  つい無理してみたくなる頑張り屋の天莉だ。
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