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そんな尽に、その場にいた全員が気圧されたかと思いきや、母・祥子だけは違ったようで。
「常、務……取締、役? え? えっ⁉︎」
てっきり娘と同期の男性がくるものとばかり思い込んでいたのだから、尽の自己紹介を聞くなり祥子が戸惑いの声を上げたのは仕方がないことなのかも知れない。
そんな祥子の肩へポンと手を載せると、父・寿史が、「まぁ玄関先で立ち話も何だ。とりあえず上がってもらってから話そう」と母を促した。
その声に、祥子が「あ、ああ、それもそうね」と慌てて、「どうぞ」と言ってくれたから、天莉と尽はやっと玉木家の敷居をまたぐことが出来た。
***
天莉の実家は、元々は市役所近くのマンションだった。
だが、父に倣って地元市役所へ就職した天莉の二つ下の弟・天城が、去年幼なじみで同僚の女性と結婚したのを機にそちらは弟夫婦へ明け渡し、今は庭付きの一軒家に移り住んでいる。
今回天莉と尽が訪ねた、日本家屋然としたこぢんまりとした平屋は、家のすぐ前がバス停。
加えて徒歩数分圏内に総合病院などもあるといった結構好条件の立地で。
最初、町の中心部にあるマンションを弟夫婦に譲ると父母から聞かされたとき、今から年老いていく両親にこそ、元のマンションがふさわしいと思った天莉だったのだけれど――。
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