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「そうですか。――実はわたしは猫が余り得意じゃなかったんですがね、妻がどうしても飼いたいと言い出しまして。マンションを息子夫婦に明け渡したい、一軒家に移り住みたいと妻に持ち掛けた際、『だったら!』と妻から交換条件に出されたのがその子だったんですよ。――まぁ、今では私もすっかりバナナの虜なんですが」
照れたように笑って、ちらりと応接間と続いた先のキッチンに立つ母へ視線を流した寿史を見て、尽が「お嬢さんの猫好きはご両親譲りでしたか」と微笑んで。
「実は……私も天莉さんと一緒に住む条件として猫を迎えたいと提案されていましてね」
さらりと同棲をにおわせる発言を織り交ぜてしまう。
実際には既に同居同然の日々を過ごしているのだが、さすがにそれは伏せておいてくれたことにホッとしつつ。
悪びれもせず語られた尽の言葉に、(ちょっと常務! それ、私が出した条件じゃないですよ!?)と思った天莉だったけれど、話の腰を折りそうなので黙っておいた。
それよりも、尽が落とした爆弾に気付いているのかいないのか。
バナナを挟んで和やかに話す尽と父を見て、ひとまず安堵して。
(まぁ、私がお父さんの立場でも、我が子が常務のようなハイスペックな男性を連れて来たらきっと、熨斗を付けて『よろしくお願いします』と言ってしまいたくなっちゃうもの)
それをされないだけマシかなと思ってしまった。
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