(12)初めまして。常務取締役をしております高嶺尽と申します

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「それにしても……。お母さん驚いちゃったな。付き合ってる人は同い年の同期の男性だって聞いてたから。一応聞いてみるんだけど……高嶺(たかみね)さんはそう……じゃないよね?」  次いで(つむ)がれた言葉に、さらなる追い打ちを掛けられてしまった天莉だ。 「あ、……うん。(じょ)……じ、んは……以前電話で話した彼じゃない、です……」  やっと口を突いた言葉は、しどろもどろで何とも歯切れが悪くて。  おまけに母親相手なのに、気まずさから敬語になってしまうテンパリ具合。  ここへ至るまでにちゃんと説明しておかなかった自分が悪いのは重々承知しているけれど、どうせ尋ねるならば(じん)も援護してくれるであろう応接間(あちら)で。  皆がそろっている状態の時にして欲しいと思ってしまった。  でも――。 「高嶺さんは天莉(あまり)ちゃんに長いことお付き合いしていた同期の彼氏がいたこと、ご存知なの?」  声を(ひそ)めるようにして続けられた言葉で、母は母なりに自分たちに気を遣ってくれていたんだと分かって。 「大、丈夫……。ちゃんと知ってる……」  一瞬でもそんな母親に心の中で恨み節を言ってしまったことを後悔しながら淡く微笑んだら、母からの愛情に気が緩んだからだろうか。  博視(ひろし)にされた仕打ちを思い出して、視界がじんわり(にじ)んでしまった。  自分では尽と暮らす中でかなりのところ克服できて来たと思っていた失恋の痛手は、存外些細なことですぐにパッカリと傷口を開いてしまうらしい。  そんな天莉を見た祥子(さちこ)は、「お母さんが知らない間に辛いことがあったのね?」と幼い頃のようにそっと、天莉の頭を撫でてくれる。  天莉は母にコクッと(うなず)くと、「お父さんも同期の元カレのこと、知ってる?」と涙目のまま尋ねた。  そんな天莉に、「ごめんね」という言葉とともに、祥子は「てっきり今日はその人と来るものだとばかり思ってたから」と吐息を落として見せる。  それでだろう。 「じゃあ、続きはあっちで……。みんながいる状態で説明するんでいい?」  潤んだ瞳で祥子を見詰めながら問い掛けたら、「くれぐれも天莉ちゃんが無理のないペースでね?」と微笑んでくれた。
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