(13)ネコ・猫パニック

2/20
前へ
/482ページ
次へ
 母・祥子(さちこ)とともに支度(したく)の整ったお茶と茶菓子を応接間へと運ぶことにする。  茶請けには母親が(あらかじ)め用意してくれていた色とりどりの金平糖(こんぺいとう)をガラスの小皿に載せた。  袋から器に取り分ける際、金平糖が皿の上で小さく跳ねてカラカラと涼やかな音を立てるのが心地よくて。  作業がとっても楽しかった天莉(あまり)だ。  桜茶はほんのりとし塩味(えんみ)のある薄茶なので、茶請けは金平糖や落雁(らくがん)、砂糖コーティングされた豆菓子などのような干菓子系が合う。  桜茶の入った湯飲みに湯蓋(ゆふた)をして茶托(ちゃたく)に載せたものは祥子が運ぶと言うので、天莉(あまり)は金平糖を取り分けた小皿が載った盆を手に母の後へ続いた。 *** 「あら、バナナちゃん、高嶺(たかみね)さんの上で気持ち良さそうね」  手にしていた品々を各自の前に出し終えて盆を横に避け置いてから着座すると、祥子(さちこ)が開口一番バナナに視線を向けて。 「バナナちゃぁーん、ママの所においでー。ほらほら、こっちよー?」  ポンポンとひざを叩きながら懸命にアプローチをしたのだけれど、(じん)に喉を撫でさすられてご満悦のバナナは、祥子からの猫なで声をスルーした。 「もさっきから呼んでみてるんだがな。バナナのやつ、よっぽど高嶺さんのことが気に入ったのか完全無視を決め込んどるんよ」  父・寿史(ひさし)がどこか残念そうに母へ説明して。  天莉(あまり)は、そんな両親に「彼、猫たらしさんなの。誰も敵わないと思う」とつぶやいて、尽に抱かれたバナナの頭にそっと触れてみる。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6544人が本棚に入れています
本棚に追加