(13)ネコ・猫パニック

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「――そう言えば私の住んでるアパート近くにね、何度顔を合わせても全然寄って来てくれない外猫ちゃんがいたの。でも、(じょ)……じ、んを見かけた途端駆け寄って来て当然のようにすり寄るんだもん。あれには正直()けちゃったなぁ」  バナナが、天莉(あまり)から撫でられるのが不服みたいにフイッと顔を背けるのを見て苦笑したら、(じん)が即座に「キミが()けたのは猫に対して? それともに対して?」と続けてきた。  その言葉に、天莉は思わずすぐ隣に座る尽を見て。  存外近い距離でにっこり微笑まれたことにドギマギしてしまう。 「ふふっ。天莉ちゃんは本当に高嶺(たかみね)さんのことが好きなのね」  その様子を見て祥子(さちこ)がそんなことを言って笑うから。  天莉は「お母さん!」と母をたしなめながら、心の中で密かに(ごめんなさい、偽装なんです)と付け足した。  尽はそんな祥子に、「も彼女を想う気持ちに関しては天莉さん自身にだって引けを取るつもりはありませんがね」だなんていけしゃあしゃあと答えるから。  天莉は(冗談が過ぎます、高嶺常務!)と思わずにはいられなかった。 *** 「そういえば高嶺(たかみね)さんは娘の前だと〝俺〟なんですね」  寿史(ひさし)の言葉に、天莉(あまり)(じん)を剥がされたみたいな気持ちがしてドキッとしたのだけれど――。
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