(13)ネコ・猫パニック

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*** 「あのね、じ、ん。お母さんが向こうでお茶の支度(したく)してるとき、私たちの馴れ初めとか聞きたいって言ってて……」  母・祥子(さちこ)のくれた機会をダメにするわけにはいかない。  とても率直なセリフで何のひねりもないけれど、天莉(あまり)(じん)にそう切り出した。 「お父さんもお母さんも……私が同期の男性と付き合ってたの知ってて。なのにバタバタしてて別れたことを話してなかったから……今日はてっきり博視(ひろし)が来るものだと思って待ってたみたいなの」  そこで誰も桜茶と金平糖に手を付けていないことに気が付いた天莉は、「あ、あの……これ、飲んでもいい?」と母を見詰めて。すぐさま「もちろんよ」と(うなず)かれた。  そっと湯飲みの(ふた)を開けて、ふわふわと漂う湯気の下、淡いピンク色をした桜が花開いているのを確認する。  天莉は茶蓋(ちゃふた)茶托(ちゃたく)の向こう側へ置きながら、そっと隣の尽を(うかが)い見た。  願わくは、このお茶がここにあることの意味に気付いて欲しいと(こいねが)いながら。  桜茶――桜湯――は晴れの日に出されることが多いお茶だ。  博識の尽ならば、きっとそのことを知っているだろう。  訪れたのは期待していた同期の男性とは違う人だったけれど、祥子は当初の予定通りこのお茶を淹れてくれていた。  それは、尽のことを歓迎していないわけではないという気持ちの表れだと天莉は信じている。  突然不躾(ぶしつけ)な質問を投げかけた両親だけど、根っこの部分では高嶺尽(あなた)のことを歓迎したいと思っているのだと、尽自身に信じて欲しい。 「あ、あの……、みんなも飲まない?」  話し始めたらきっと長くなる。 ―― 本編4万★達成のお祝いにスター特典『ナイフと皿とフォークはどこですか?』 755602a0-47c0-4b4e-9272-e3c83f6de6ff https://estar.jp/extra_novels/26115295 を書き下ろしています(*´ー`*人)。  
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