(13)ネコ・猫パニック

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(私だって彼を私のことでオロオロさせたりヤキモキさせたりしてみたい……)  それは無理でも、せめて自分の半分でも(じん)に自分を見て欲しいと思って。  だけど――。 (……利害関係がなかったら、高嶺(たかみね)常務は私のことなんて目にも留めてくれてなかったよね)  そんな風に考えたら、苦いものがこみ上げる。  天莉(あまり)はそんな不毛な感情を押し込めるように、目の前の器から金平糖をつまみ上げると、口の中へ放り込んでギュッと噛みしめた。  ジャリッという音とともに、奥歯の上で甘い甘い砂糖菓子が砕け散って。  いつまでも舌の上に残る甘さと、ザリザリとした感触が、まるで自分の気持ちみたいだと思ってしまった天莉だ。 (きっとあの日、彼と一緒のエレベーターに乗り合わせてしまった瞬間から、私は高嶺(たかみね)常務に惹かれる運命だったんだ)  高身長で物凄くハンサムで、おまけにふんわりといい香りがして……。  強引で子供っぽいところもあるけれど、根本的な部分では天莉のことを尊重して優しく気遣ってくれる。  それが尽からの、(いつわ)りのフィアンセに対する最低限の心遣いだというのは分かっていても、博視(ひろし)にずっと(ないがし)ろにされ続けてきた天莉には、この上なく甘美な罠だった。 (――いきなりキスして来たり……やたら男性を意識させるんだもん。好きになるなって言う方が無理だよ……)  見た目も良くて中身もいいとか……。  そんな人に特別扱いされて、恋に落ちないはずがない。 (だけど……常務はそうじゃない)  天莉は自分の容姿を過小評価している。  若い頃から紗英(さえ)みたいなフワフワした可愛らしさとは無縁だったし、性格だって真面目過ぎて息苦しい、と博視から指摘され続けてきた。 (何で常務はこんなでいいと思ってくださったんだろう)  両親に自分との馴れ初めを話している尽を横目に、天莉は負のドツボにハマってしまってソワソワと落ち着かない。
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