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その言葉に天莉はグッと言葉に詰まって――。
思わず涙で泣き濡れた瞳のまま、助けを求めるようにすぐ隣へ座る尽に視線を投げかけた。
だが、尽はそこに関しては何も言うつもりはないらしく、そればかりか逆に重ねて聞いてくるのだ。
「それは俺も気になっていた。ねぇ天莉、もう一度ちゃんと聞かせて? キミは俺のこと、好き?」
と――。
眼鏡越し。
真剣な眼差しでじっと尽から見詰められた天莉は、涙が一気に引っ込むのを感じて。
「……好き」
そうして何も考える間もなく自然とそんな言葉が口を突いてしまって、自分自身驚いてしまう。
婚姻届にサインをした仲なのだ。
今更そんなことを確認し合うのはおかしいけれど、自分たちの関係は最初から普通じゃない。
天莉がそんなことを思ったのと同時。
尽が、まるで予想外の言葉をもらったと言う表情をして、息を呑んだのが分かった。
それを見た天莉は、即座に〝答えを間違えた〟と気が付いて。
尽を困らせない理由を付け加えるみたいに、両親へ話す体で慌てて言い募る。
「あ、あのね、お父さん、お母さん。確かに私、博視――、えっと……元カレにフラれたばかりでまだ傷が癒え切ってないところがあると思うの。実際、今みたいに何かのきっかけでポロッと泣いちゃって、自分でもどうしたら良いか分からなくなる時があるのも事実。常……尽と一緒にいても、つい彼を元カレとあれこれ比べてしまってることもしょっちゅうで……」
そこまで言ったら、父親が口を開きそうになったので、お願いだから最後まで言わせて欲しいと目で訴えた。
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