(13)ネコ・猫パニック

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 そんなことをしても後の祭りだというのは分かっている。  分かっているけれど、天莉(あまり)はそうする以外に何も思い付けなかったのだ。  そんな天莉の迫力に驚いたのか、今まで(かたく)なに(じん)のひざの上から退()こうとしなかったバナナが、慌てたように飛びのいてしまう。  だけど、そんなことにも頓着(とんちゃく)していられないくらい、天莉の心は千々にかき乱されていた――。 「私……私……」  自分のせいで尽との結婚が――ひいては〝偽装の契約関係〟が御破算(ごはさん)になってしまったと気が付いた天莉は、ショックで上手く言葉を(つむ)げない。  尽は、そんな天莉をそっと抱き寄せると、天莉の耳元。静かな声音でそっと問いかけた。 「ねぇ天莉。お願いだからさっきの言葉は嘘だって言って?」 「さっきの……言葉?」  尽の懇願するようなバリトンボイスが、天莉の中へゆっくりと浸透してくる。  両親の目の前で尽に抱き締められていて……。  そんな二人のただならぬ空気感を、父母が何も口を挟めずに固唾(かたず)を呑んで見守っていることにも気付けないまま。  天莉はつぶやくように尽の言葉を反芻(はんすう)した。 「俺への気持ちは……本当に横野以下?」  尽にそう付け加えられた天莉は、あの言葉が思いのほか尽を傷つけていたのだと、今更のように気付かされて。 「そんなわけ……ありません。私の中で常務は……もうとっくの昔に博視(ひろし)なんか足元にも及ばないくらい大切な存在になっています。……嘘をついてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。私、ただ……んです」
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