(13)ネコ・猫パニック

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「……そうか」  天莉(あまり)はずっと、偽装の関係のはずの(じん)のことを本気で好きになってしまっただなんて、尽本人にだけはバレてはいけないと思っていた。  だけど――。 「……それを聞いて安心した。天莉、俺のことを大切だと言ってくれて有難う。俺も天莉のことを誰よりも大切な存在だと思ってるからね。それから……不安にさせてすまない。その辺もちゃんと払拭(ふっしょく)してもらえるよう頑張るから……俺のことを見捨てないで?」  不安にさせていることを謝罪してくれた上、そうさせないよう努めてくれるとまで言ってくれた尽の、心底ホッとしたような表情と柔らかな声音に、そう言うのは全て杞憂(きゆう)だったのかな?と思えて。 (見捨てられたくないのは私の方だよ……)  (おろ)かな嘘をついた本当の理由(わけ)は、両親の前では語れない。でも尽と二人きりになれたら、ちゃんと説明しよう。  天莉が尽の腕の中でそう思ったとき、ニャーンと鳴いて、バナナが二人の間へ割り込むようにして尽のひざの上へ戻ってきた。  バナナの強引さに思わず苦笑して、そこでハッとしたように天莉は今更ながら両親の存在を思い出す。 「あ、あの……常務……」  恥ずかしさに懸命に尽の腕から逃れようと手を突っ張ったら――。 「ねえ俺の可愛い。さっきから俺のこと、言いつけ通り名前で呼べてないの、気付いてる?」  尽がギュッと腕に力を込めて天莉の耳に唇が(かす)めるくらいの至近距離で言葉を吹き込んでくる。  それはきっと、天莉だけに聞こえるくらいの(ささや)きだったのだけれど。 「帰ったらお仕置きだね」  ククッと笑って、真っ赤になって耳を押さえた天莉を解放すると、尽は何でもなかったように居住まいを正した。
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