(13)ネコ・猫パニック

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*** 「ご両親の前で、少々暴走してしまいました。申し訳ありません」  そのまま素直に謝罪の言葉を述べて深々と頭を下げた(じん)に、 「あ、いや、それは――」  寿史(ひさし)がソワソワと瞳を揺らして。  きっと、寿史の世代には人前で恋人を抱きしめると言う発想自体がないのだろう。  何と答えたらいいのか戸惑っている様子の頼りない旦那に代わって、祥子(さちこ)が口を開いた。 「少々驚きましたが、どうやら娘の本心が引き出せたようで安心しました」  至極冷静な凛としたその様子は、ホテル前で車窓越しに見かけた天莉とどこか似ていて。    尽は、祥子の言葉にゆっくりとうなずきながら、自分が惹かれた、天莉のここぞという時の力強さはきっとこの母親似なのだな……と思った。 ***  帰り際。  玄関で別れを告げた(じん)天莉(あまり)に、 「そうだ! 高嶺(たかみね)さんが持って来てくれたどら焼き、折角だからちょっと持って帰らない?」  すっかり尽と打ち解けた様子の母・祥子(さちこ)が、パチンと両手を打ちながら、 「帰りの車の中で食べたらいいわ」  さも名案だとばかりに気安い感じでそう持ち掛けてくる。  だが、同じものが家にも買ってあったので、『うちにもあるし、二人で食べて?』と天莉が言おうとしたら、それより少しだけ先に尽が口を開いた。 「大変魅力的なお申し出ですが、あのどら焼きには結構ふんだんにラム酒が使われていますので……」  心底残念そうに眉根を寄せて、今から運転する自分が食べるのは難ありだと言外に含ませる。
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