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実は尽から、相手側が気を遣って自分たちに持参した菓子折りを持たせたりしてくれるのを防ぎたい時に、酒入りの菓子を選択したりする、と聞かされていた天莉だ。
「天莉だけもらったら?」
そこでふと思いついたように眼鏡越し、試すような視線を投げかけられた天莉は、尽が自分の性格を熟知していてそんなことを言ってきたんだろうなと思って。
「私だけ食べても美味しいねって話せなくて寂しいから遠慮しとく。食べるんなら常……じ、んと一緒に、がいい」
言って、天莉は先程言いそびれた言葉を付け加えた。
「実はね、お母さん。尽が……うちにも一箱、同じものを買って来てくれてるの」
知らず知らず、一緒に住んでいることを匂わせるような発言をしてしまった天莉だったけれど、幸い尽が一人密かにほくそ笑んだだけで両親には気付かれなかった。
「それがあるから大丈夫だよ?」と微笑んだ天莉に、「そーお? だったら六個全部、お父さんと食べちゃおうかしら〜♪」と祥子が笑って。
すかさず今まで黙って立っていた父・寿史が、「わしは最近太り気味だからお前が四つ食え」とか恐ろしいことを言ってくる。
「嫌ですよぅ。私も最近ちょっとヤバイんですから。食べる時は仲良く三個ずつ食べて、一緒に太るんです。一蓮托生ですよ」
二人とも甘いものが大好きで、どら焼きなんて数個一気にぺろりと食べられることを知っている天莉だ。
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