(3)尽からの提案

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 冷静に考えてみたら(じん)には謝罪せねばならないことが山積みで、口を開けばあれもこれもとなってしまった天莉(あまり)だ。  心の中で指折りひとつずつ数えながら声に出したら、尽が「いくつあるんだ」と、どこか呆れたようにつぶやいた。 「……キミは存外頑固で律儀な性格のようだね」  でも続けられた言葉と一緒に、ふっと微かに持ち上がった口角がどこか現状を楽しんでいるように見えたから。  天莉はコクッとうなずくと、そのまま言いたいことを全て言い切ってしまうことにする。 「体調管理が出来ていないせいで常務の貴重なお時間を奪ってしまったこと、深く反省しています」  天莉の記憶が正しければ、自分の意識が途絶えたのは、エレベーター内でだったはずだ。  でも、尽の個室(重役室)で目覚めたということは、きっと目の前の男が自分をここまで運んでくれたに違いないわけで。  そう考えると、無性に恥ずかしくてたまらなくなってしまった。  それに――。  自分がここに居座っていては、現在進行形で尽の時間を奪い続けていることになるではないか。 (もう、私のバカ! 何をのんびりと休ませてもらってるの! 高嶺(たかみね)常務は分刻みで動いてるような忙しい方だわ。ここから早く出て行かないとっ)  業務時間内ならば大抵(かたわ)らに秘書を(はべ)らせている尽がひとりでいることが、もしやプライベートな時間?と思って気になりはしたけれど、そうだったとしてそれこそ天莉には関係のないことだ。  天莉はソファーの上からソワソワと尽を見上げて、「あの、最後のは……まだ現在進行形でしたね。……本当にすみません。私、すぐにお(いとま)しますので」と付け加える。  どのくらいここで休ませてもらっていたのかは分からないけれど、少なくとも倒れた時よりは回復しているように思えたから。  天莉はソファに手を突いて起き上がろうとして、尽に腕を掴まれて制されてしまった。
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