(14)あの場で婚姻届を出さなかった理由

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天莉(あまり)。その反応から察するに、キミは大方俺が天莉との結婚自体を考え直したくて、あの場で婚姻届を出さなかったとでも思ってるんだろ? けど……本当の理由はそうじゃないからね?」  (じん)の胸元へ密着した額に、彼の心地よい低音ボイスの振動を感じながら聞いてから、天莉はギュッと両手に力を込めて尽から少しだけ距離をあけた。  そうしておいて、すぐそばの彼を真っ直ぐ見上げる。 「違う、の……?」  恐る恐る問い掛けたら「バカだな」と吐息を落とされて、涙を親指の腹で拭われる。 「その反応、正直物凄く心外なんだけど。ねぇ天莉。俺の言葉がそんなに信用出来ない?」  穏やかな声音でそっと聞かれて、天莉は何と答えたらいいのか分からなくて戸惑った。  もちろん、尽のことは信じたい。  信じたいけれど……偽装の関係である以上、天莉が本心を告げたことはご法度(はっと)だったようにしか思えなくて。 「私たち、利害の一致で結婚するって約束だったのに……。私が本気になってしまったって言ったから……、嫌になった、んじゃ……ない、の?」  思っていることを震える声音で口にしたら、まるでそれが真実になってしまいそうな恐怖に見舞われて、身体が小さく震えてしまった天莉だ。  そんな天莉を再度ギュッと抱き締め直すと、尽が静かな声音で宣言した。 「そうだね。その約束は終了だ、天莉」 「えっ?」  尽の言葉に、天莉は彼から突き放されたような気がしてソワソワと身じろいだ。  だけど――。
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