(15)初めてのマリアージュ

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「そういうのを隠さないところがじ、んの魅力だと思う……、けどな?」 「それは良かった」  照れ隠し。語尾が疑問形に持ち上がってしまったけれど、(じん)は満足したらしい。  ホッとしたように肩の力を抜くと、心底嬉しそうに微笑んだ。 (だからっ。その笑顔は反則ですっ!)  天莉(あまり)はさっきから尽にあてられっぱなしで、正直心臓が持ちそうにない。 *** 「そう言えば天莉(あまり)、確か日本酒はいける口だよね?」  実は天莉、酒はそれほど強くない。  だけど日本酒は割と好きで、時折ほんの少しだけ(たしな)んでみたりする。  きっと数ある酒類の中から日本酒を選んでいる時点で、その辺も優秀な秘書様からのリサーチで既知なんだろうに、ちゃんと天莉に確認を取ってくれる(じん)は優しいなと思って。 「えっと……むしろ好きです。そんなに量は飲めませんけど」  気が付けば、天莉は尽と一緒に酒を飲む(てい)でそう答えてしまっていた。 「良かった」  ふっと柔らかい笑みを天莉に向けて、パントリーの片隅から片手鍋を取り出して来た(じん)に、思わず「私が」とつぶやいてから「あの……でも徳利(とっくり)とかそういうのは……」と、尽を仰ぎ見た天莉だ。 「大丈夫。徳利じゃないが、ここにいいのがある」  酒と一緒に手配したのだと言う長方形の箱を掲げて見せる尽に、天莉はキョトンとして。 「(すず)製の地炉裏(ちろり)だ」  尽が箱の中から取り出したのは、鈍色(にびいろ)に光る金属製の把手(取っ手)付きのコップみたいなもので、注ぎ口がついていた。 「ちろり?」 「ああ。日本酒を温める専用の酒器のことだよ。熱伝導が高いから湯の中へ入れれば、あっという間に(かん)がつく」  陶器製の徳利(とっくり)より早く温まる上、保温性にも優れているらしい。
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