(15)初めてのマリアージュ

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***  (じん)――直樹?――が言った通り、甘いどら焼きと、日本酒との相性は抜群で。  (ぬる)めに(かん)をつけた日本酒はとろりとしていて、果実のように熟成された芳醇(ほうじゅん)な香りが、いつも飲んでいる酒とは少し違って感じられた天莉(あまり)だ。  加えて。 「綺麗な琥珀色……」  それも古酒の特徴らしい。  熟成年数が増せば増すほどこの色が濃くなるのだとか。  青み掛かって感じられるほどに澄み切った色の若い日本酒しか飲んだことがなかった天莉は、琥珀色にゆらゆらと揺れる色みに目を奪われる。  白地の中に藍色で蛇の目模様が描かれた利き酒に使う猪口(ちょこ)は、中に入った酒の色をこれでもかと言うくらい天莉に意識させた。 「気に入ったかね?」  すぐ横に座る尽から、うっとりするようなバリトンボイスで問い掛けられて、天莉は素直にコクッとうなずいた。 「ラムレーズン入りのどら焼きも、このお酒も……私には初体験の連続で……味覚も嗅覚も視覚もびっくりしっぱなしです」  別に可笑しいことなんて何もないのに、ふふっと笑いながら答えてしまったのは、もしかしたら少しアルコールが効いてきたのかも知れない。  空きっ腹にお酒はいけないという思いはあったから、先にラム(くん)ドラをはむはむしてお腹を膨らませたつもりだったのだけれど。 (どら焼きの方のお酒も結構強かったんだもん……)
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