(3)尽からの提案

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「た、かみ、ね常務……。ご冗、談は……」  天莉(あまり)は正直な話、博視(ひろし)以外の異性とこんなに近付いたことがない。  仕事に対する時同様、真面目な性格そのままに恋愛に対しても真っすぐで実直な天莉は、彼氏以外の男性と肌を触れ合わせる距離になることを良しとしなかった。  当然浮気なんてしたこともない。  もっと言うと、生れて初めて出来た彼氏が博視だったから、彼以外の男性に対する免疫自体が物凄く低いのだ。  気恥ずかしさに目を泳がせながら何とか言葉を(つむ)いだら、(じん)にクスッと笑われてしまった。 「……さっき俺が言った言葉、覚えてるか?」  そのまま柔らかな声音で問い掛けられた天莉は、慌てて口をつぐんで。 「よろしい」  その言葉とともに尽が押さえていた手を解いて、天莉の上から身体を起こしてくれたことにホッと胸を撫でおろす。  だが、即座に立ち上がってくれると思っていた尽が、そのまま天莉のすぐそばに浅く腰かけるから。  尽の重みで傾いたソファの座面に、そちら側へ身体が流れないよう必死で身体を突っ張る羽目になった。  そんな天莉の苦労を知ってか知らずか、尽がこちらに背を向けたまま言うのだ。 「玉木さん、キミは確か一人暮らしだったね?」  突然問い掛けられた質問の趣旨が分からないまま、恐る恐る「……はい」と答えたら、少し考えるような間があいて――。 「だったら今夜はうちに泊まりなさい」  ややして告げられた言葉に、天莉は思わず「ふへ?」と間の抜けた声を出していた。 ***  尽は先日、運転手付きの車窓越し。  接待で訪れていた高級(ハイエンド)ホテル前で、見知った男女三人が何やら立ち話をしているのを見かけた。
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