(15)初めてのマリアージュ

12/12
前へ
/482ページ
次へ
「ごめ、なさっ。私のせいで常務も着替えとか……」 「俺が好きでキミの枕になってたんだ。そこは気にしなくていい。それよりも――」  (じん)天莉(あまり)を抱く腕にギュッと力を込めると「さっきから俺のこと、また〝常務〟って呼んでるね? 俺としてはその方が大問題なんだけど」と吐息交じり。 「キミはそんなに俺からお仕置きがされたいの?」  どこか楽し気にバリトンボイスを天莉の耳朶(じだ)に吹き込んでくる。 「そ、んなことあるわけないっ」  焦る余り、語尾を盛大に噛んでしまった天莉だ。  断じて先ほどまでのように呂律(ろれつ)が回らなかったわけではない。  なのに――。 「ああ、これはまずい。どうやら天莉はまだ酔いが醒め切っていないみたいだ。……一人で風呂は危険過ぎるね」 「だっ、大丈夫ですっ! バッチリキッチ醒めてまっ!」 (あーん、また噛んだっ!)  キッチリ醒めてます!がちゃんと言えなくて、天莉はグッと言葉に詰まった。  焦れば焦るほどグダグダになってしまう。 「うん、ホント、醒めてるね。――酔っ払いは大抵酔ってないって言うんだ。ほら。遠慮しなくていいよ? 俺も一緒に入るから」 「ほぇっ?」  言うなり、尽は天莉の答えを聞かないままにソファーから降りて。  目を白黒させている天莉を軽々と横抱きに抱き上げてしまう。 「あ、あのっ、私、本当に一人でっ」  尽の腕の中、ジタバタしながら懸命に言い募った天莉に、尽はククッと喉を鳴らして笑うと――。 「残念だが天莉。これはお仕置きも兼ねているんだ。諦めなさい」  高らかにそう宣言した。
/482ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6535人が本棚に入れています
本棚に追加