(16)私だけの呼び方*

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天莉(あまり)」  脱衣所まで連れ込んだ天莉をそっと床に下ろした(じん)は、せっかく捕らえた〝獲物〟を逃がさないよう真正面からぎゅっと抱きしめた。 「あのっ、尽さんっ。私、ホントに酔ってなんか」  往生際悪く言い募る天莉が可愛くて、尽は目の前でくるくると百面相をする生き物を、もっともっといじめてみたくなる。 「さん、も要らないって言わなかった?」  言いながら天莉の背中に回した腕を、そっとカーディガンの裾口(すそぐち)から内側へ忍ばせる。  ワンピース越し、背骨に沿って天莉の背中を何度も何度も指先でくすぐりながら、本人に気づかれないように背面のファスナーに手をかけた。  一番上のところがホック留めになっているから、ファスナーを全て下ろしたところでそう簡単には気付かれないことを尽は計算づくで。  まるで先程からしているように背中を撫でる調子でファスナーをジーッと下まで全部下ろしてしまった。 「でもっ」  カーディガン(水面下(?))で進行する尽の悪行も知らないで、天莉は会話に気を取られている。  天莉のそういう真っ直ぐなところが、尽にはたまらなく可愛く思えて……。同時に何て危なっかしいんだろうと心配になった。 (まぁ、今回は相手が俺だったから良かったようなものの)  などと、天莉が知ったら『何にもよくありません!』と全力で否定してきそうなことを考えて、尽は一人ほくそ笑む。
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