(16)私だけの呼び方*

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高嶺(たかみね)常務も……私にするの?)  天莉(あまり)の恥ずかしいところを傍若無人に引き裂いて無理矢理隘路(あいろ)をこじ開けて侵入する博視(ひろし)の行為は、いつだって自己本位で、ただただ痛くて早く終わって欲しい苦行に過ぎなかった。 (私、エッチが気持ちいいなんて思ったことないよ?)  それで(じん)の腕の中。  思いっきりジタバタしながらバカだの意地悪だのエッチだの言って、彼を散々(ののし)って『まだ早いです』と牽制(けんせい)してみたのだけれど。 「ねぇ天莉。……もう一回〝尽くん〟って呼んでみて?」  どうやら尽は天莉が発した〝尽くん〟がいたく気に入ってしまったらしい。 「い、イヤですっ」  何だかそれをもう一度口にしてしまったら一気に身ぐるみを剥がされてしまいそうな危機感を覚えてしまった天莉だ。 「ね、天莉、お願いだから」  なのに、このタイミングで大型犬・甘えん坊モードを使ってくるとか、尽は本当にずるい。  天莉は尽のおねだりに滅法弱いと自覚しているのに。  天莉を手中に収めたまま。本当は力づくで何とでも出来るだろうに尽はそんなことしない。  代わりに、幻の垂れ耳とふさふさ尻尾を(たずさ)えて、キューンと()びながら天莉を見下ろすようにして懇願(こんがん)してくるのだ。  その顔に思わず毒気を抜かれて力を抜いた天莉の右肩から、引っ掛かっていたカーディガンがするりと抜き取られてしまった。 「えっ」  急に寒くなった両肩に驚きの声を上げる天莉をよそに、尽はそれを脱衣カゴへ器用に放り投げて、当然の権利みたいに天莉の首筋にスリスリと鼻先を擦り付けてくる。 「や、んっ、それ……くすぐったい。や、めてっ」  くすぐったい、と口では言って首をすくめてみたものの、実はそれだけではなく背中をぞくぞくと言いようのない快感が這い上ってくるようで、天莉は未知のその感覚が怖くて堪らなくて。  懸命に尽から離れようともがいた。
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