(16)私だけの呼び方*

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「やめて欲しかったら……ほら、俺の望みを叶えて? それを交換条件に止めさせたらいいと思わない?」  カリッと耳朶(じだ)を甘噛みされた天莉(あまり)はビクッと身体を撥ねさせて、熱に潤んだ瞳で(じん)を見上げた。  それを合図にしたみたいに腰を抱く腕に力を込められて、天莉は身動きもままならないまま尽の背中をペシペシと叩くことしか出来なくなってしまう。  こうなってしまっては、尽が(そそのか)しているように、天莉の身体の中で今自由に動けるのは唇のみに思えてきた。 「ほら、この可愛い口で……『尽くん、やめて? お願い』って言うだけだよ? 簡単だろう?」 「あ、じ、ん……くん、……やっ……、んんっ!」  ならば、と尽の言う通りにしてしまおうと口を開いた天莉だったのだけれど。  彼が望むまま「尽くん」と呼び掛けて、「やめて」と続けようとするたび、まるで狙ったみたいにゾクリと身体が粟立つ箇所へピンポイントで舌を這わせてくるとか。  わざとやっているとしか思えない。 「天莉は鎖骨に触れられるのがなんだね」  ふっと笑いながらそこへツツツ、と濡れた舌を這わせて、ついでのようにふぅーっと息を吐きかけてくるとか。 「……意、地悪っ」  好きとか嫌いとか……天莉にはよく分からない。  だけどそこに触れられるたび、鎖骨からくすぐったいような(しび)れるような、何とも言えない感覚が身体を支配していくのは分かった。  さっきから背中に回された腕が首筋から背筋に添って腰の辺りまで何度も何度も行き来するのもその刺激に拍車を掛けてくる。 (ダメッ。これ以上されたら私、声がっ……)  天莉は感じていると表現してしまうことを、はしたなくていけないことだと思っているのに、まるでそこを突き崩したいみたいに振る舞ってくるとか。  尽はなんて意地悪なんだろう。 「ん? なんだ、今頃分かったの? 男は好きな女の子には意地悪な生き物なんだよ、天莉」  ククッと嬉し気に笑う声がして……次の瞬間。 「えっ」  天莉の両肩を尽の両手のひらがスッと撫でたと同時、ワンピースがストンと落ちて、天莉の足元でドレープを作ってしまう。 「な、んでっ?」  今や天莉は胸元と(すそ)にレースがあしらわれた白のスリップと、上下揃いの薄桃色のブラジャーとショーツのみ。  余りのことに悲鳴すら上げるのを忘れて、尽を見上げたまま呆然と立ち尽くしてしまった天莉だ。
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