(16)私だけの呼び方*

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「おや? さっき言わなかったかね? 酔った天莉(あまり)を一人で入浴させるのは危険だから出来ない、と」 「だからっ。もう酔ってなんかい、ひゃぁっ!」  酔ってなどいないと言い切りたかったのに、わざとだろう。  (じん)が絶妙のタイミングで天莉の耳孔(じこう)にふぅっと吐息を吐き掛けてくるから。  天莉は言葉半ばで声を(うわ)ずらせてしまった。 「ほらね? 今もしっかりと挙動不審だ」 「そっ! それはがっ!」  必死に尽の詭弁(きべん)に対抗しようと口を開いた天莉に、尽が「はぁー」とあからさまに大きく吐息を落とすと、まるで天莉がいけないみたいに眼鏡の奥から心底困ったように眉根を寄せて見せる。 「……ホント、キミはどれだけ俺にお仕置きされたいの?」  わざとらしく「優しくしたいのに……」とどこかに付け加えてくるその言動からして、絶対今の困り顔もポーズに違いないと天莉にも分かっているのに。  何を言っても尽のペース。  何ひとつ思い通りになんてなりそうにない。 「じっ、尽くんの意地悪っ」  結局堂々巡り。  さっき尽から「その通りだよ」と悪びれた様子もなく肯定(こうてい)された非難を再度口の()に乗せて尽の腕の中。天莉はキッと尽を睨み上げた。 「決めた」  だが、その反抗的な態度がいけなかったんだろうか。  尽はクスッと笑うと、眼鏡を洗面化粧台の上に置いて、「優柔不断な天莉に代わって俺が決めてやろう」と意味不明なことを言い始める。 「ふぇっ!?」  キョトンと尽を見上げる天莉に、眼鏡を外してもそれほど支障はないのだろうか。  尽がニヤリと笑うと、「第三の選択肢を決行するとしよう」と、高らかに宣言した。
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