(16)私だけの呼び方*

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 だが、背中がノーガードなことに気付いているからだろう。  普通は洗い場壁に取り付けられた鏡の方を向いて座るだろうに、今回はその逆。  (じん)の方を向いて座るとか。 「天莉(あまり)、座る向きが逆じゃない?」  天莉の考えていることは分かっていても、つい意地悪でそう問い掛けたくなった尽だ。 「だって……そっちに尽くんがいる、から……」  ギュウッとタオルを抱きしめるようにして泣きそうな顔をしてこちらを見上げてくる天莉に、尽は「鏡に映ってるから結局変わらないんだけどね」と、わざとククッと笑って見せる。 「やんっ」  尽の言葉に背後へチラリと視線を投げかけた天莉が、鏡に映らないためだろうか。  グッと身体を折りたたむようにして身を屈ませて。 (いや、そうすると逆に背中とか可愛いお尻とか……俺から丸見えになるんだけど)  やることなすことみんな裏目に出るとか……。尽には、天莉のそういうところが可愛くてたまらない。  天莉のすぐそばに立った尽からは、前屈姿勢になった天莉の背骨と、その先に続く臀部までのラインが綺麗に見えていて、今すぐにでもその背筋(せすじ)のくぼみに添って指先を這わせたい衝動に駆られる。  それをグッと理性で(おさ)え付けると、尽は天莉に声を掛けた。 「とりあえずそのままだと身体が冷える。お湯を掛けるからね」  天莉にかからないようシャワーヘッドを手にして向きを変えると、コックをひねってお湯を出す。  指先で湯温を見ながら、適温になったのを確認してから天莉のなだらかな背中にそっとシャワー口を向けると、きめ細かい天莉の肌は、お湯を綺麗にはじいた。 (綺麗だな……)  天莉はアラサーだと気にしているようだが、三十路(みそじ)半ば近い尽から見れば天莉はまだ二十代のうら若き女性(おとめ)だ。
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