(16)私だけの呼び方*

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 肩口を過ぎた天莉(あまり)の髪の毛が、濡れて首筋に張り付いているのを色っぽいな……だなんて眺めつつ返事をしたら、「わ、私だけ裸は……恥ずかしい……です……」と消え入りそうな声で訴えてくる。  ともすると水音にかき消されてしまいそうな小声だったけれど、(じん)にはその声がしっかりと聞こえて。 「それは俺にも服を脱いで?っておねだりだと解釈したんでいい?」  わざと確認するように天莉の要望を具体的に言語化したら、予想に反して素直にコクコクとうなずいてきた。  きっとそれだけ現状が限界なんだろう。 「……もう逃げたり……しない、から」  こんなにびしょ濡れにされてしまっては、天莉の性格からして床を濡らしながら走り去るとか無理なのは分かり切っている。  なのに、わざわざそれを律儀に口の()に乗せてくるところが本当に(この)ましいなと思った尽だ。 「分かった。じゃあちょっと脱いでくるから自分でトリートメントをしながら待っていてくれる?」  シャンプーと(つい)になったトリートメントのボトルを天莉の目の前へ来るよう床上に置いたら、うつむいたままの天莉が「はい」と、よく出来た生徒みたいに良い返事をして。  尽はそんな天莉に「すぐ戻るからね」と先生みたいに声を掛けると浴室を後にした。
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