(16)私だけの呼び方*

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(近いうちにアパートに帰りたいって言ったら……(じん)くん、何て言うんだろう)  そう考えるなりすぐさま『おや、天莉(あまり)。この家で俺と一緒に猫を飼うのは諦めるの?』と耳元で問い掛けられた気がして、天莉はグッと唇を噛んだ。  そのことを思い出したと同時、あの条件は物凄く過ぎてずるいと思って。  お風呂場で一人になれた安心感からだろうか。  あれこれと物思いに(ふけ)り過ぎていた天莉は、結局トリートメントもしないまま――。 「天莉、髪の毛の方は全部済んだ?」  腰に天莉と同じく小さなフェイスタオルタオルを一枚だけ巻いた尽に、鏡越しに問い掛けられて、びくっと肩を跳ねさせた天莉だ。  鏡の方を向いていて尽の方へお尻は丸見えだし、鏡に映ったタオル姿だって頼りない。  それに――。  ミラー越しに見た尽の、たくましい胸板と二の腕などに目を奪われて、天莉はやたらと恥ずかしくなってしまったのだ。 (博視(ひろし)の裸と全然違う……!)  博視のヒョロリとしたなまっ(ちろ)い裸なんて比べ物にならないほどの猛々(たけだけ)しい〝雄〟を感じさせられて、自分だけが裸だった時の方が数百倍マシにさえ思てしまった天莉だ。 (じ、尽くんって……着痩せするタイプだった、の……?)  思い起こしてみれば、触れ合うたび尽の腕の中はどっしりとした安心感があった。  あれはこの美術品のような肉体美のおかげだったのね、と天莉は今更のように気付かされた。  完全に油断していたところへ尽が戻ってきて、ひゃわひゃわと慌てる天莉とは裏腹。  尽はとても落ち着いた様子で 「どうやら出来てないみたいだね。じゃあ、俺がそのまま続けてあげよう」  と宣言した。
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