(17)声を聴かせて?*

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 鏡の方に向いてしまっていた身体の向きを変える暇も与えてもらえないまま、天莉(あまり)(じん)に丁寧にトリートメントで髪の調子を整えられてしまう。 (もぅ絶対お尻とかお尻とかお尻とか見られまくってるじゃん! 穴があったら入りたいよぅ!)  そう思いつつ、しっかりと鏡に自分の姿が映っているのも見えるから、ギュッと抱き締めるようにしたタオルからも手が離せない天莉だ。  そんな中、自分の身体の陰になっていて、尽の裸――特に下半身――が鏡に映らないのだけは不幸中の幸いに感じられて。 (男の人の裸って……こんなに色っぽかった?)  ヒョロガリの博視(ひろし)と、幼い頃に見たことがあるお腹ぽっこりの父・寿史(ひさし)の身体しか比較対象のない天莉には、尽の裸体は破壊力があり過ぎて。  見たら駄目だと思うのに、しっかりと映っていないという安心感が手伝うのだろうか。  チラチラと鏡越し、尽の様子を確認せずにはいられない。  そんな折だった。 「ね、天莉、このまま身体も洗ってあげたいんだけど……いいかな?」  天莉のすぐそばに(ひざまず)いた尽から自分のすぐ背後、耳孔(じこう)に吐息を吹き込むみたいに低音イケボで問われて。  天莉は思わず「ひゃいっ!」と、肯定(こうてい)とも取れるような悲鳴を上げてしまっていた。 「有難う」  ふっと耳元で笑う声とともにお礼を言われた天莉は、天莉が愛用しているからと言う理由だけで尽が買って来てくれた桃の香りがするボディソープのボトルを手に取る尽を見て、サァーッと音を立てて血の気が引くのを感じた。 「あ、あのっ、尽くんっ。尽くんも身体、洗ったりしなきゃいけないでしょっ? だから……」  自分のことは自分でするよ?と言ったつもりだったのだけれど。 「ああ、か。……それはめちゃくちゃ(そそ)られるだね」  と嬉し気に即答されて。  天莉は予想外の返しに「(さそ)っ⁉︎」と驚きの声を漏らさずにはいられない。
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