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自分の前戯が足りないのを棚上げして、あたかも天莉が悪いみたいに洗脳したに違いない。
でなければ、元来聡明なはずの天莉が、情事においてこんなに頑なに声を出すことを恐れるはずがないではないか。
(クソがっ!)
尽にはそういう男の心情なんて、一生分からないと思った。
相手の心を押さえつけるようなセックスなら、する意味なんてない。
ただ出したいだけなら自慰で十分だ。
そもそもこんなに綺麗で愛らしい天莉を捨てて、江根見紗英に行くこと自体、尽には理解不能なのだ。
(自分好みな従順さに育て上げた愛らしい天莉から、遊び慣れてそうな江根見に乗り換えることに、メリットなんてあったのか?)
尽には、江根見紗英のわずかばかりの若さなんて、天莉の魅力に比べたら何の価値もないように思えた。
(江根見営業部長から何か言われたとか?)
そうとしか思えない。
(何にしても人を見る目がなさ過ぎだな、横野)
そうしてそれを言うならば、そんな男に翻弄されて、未だにその男の言った言葉に縛られている天莉も相当なバカだと思ってしまった。
「天莉、バカ男に言われたことはっ……、一旦全部リセットしろっ」
そこで天莉の胸の飾りをキュッとつまむと、指の腹でゆるゆると転がすように優しく押しつぶす。
「あ、ぁんっ」
「天莉っ。……俺には……自分の言いたいこと、全部ぶちまけていいんだからね?」
「……ぜ、んぶ?」
「ああ、全部だ。いい時はもちろん、ダメな時だって遠慮なく言ってくれて構わない」
元より天莉に痛いことなんてするつもりはないのだが――。
尽は潤んだ瞳で鏡越し、自分を驚いたように見つめてくる天莉を、心底大切にしたい、守ってやりたいと思った。
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