(17)声を聴かせて?*

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***  (じん)に、博視(ひろし)から今までしてはいけないと言われ続けてきたことをあっさり許されて、天莉(あまり)は男性と肌を重ねるということに対する恐怖心が、少し薄らいだ気がして――。  正直、天莉にとって性行為は、男性を受け入れても痛いだけ。気持ちいいだなんて思ったことのない、むしろ苦痛でしかないものだった。  なのに『痛い』と訴えるたび、博視が舌打ちして『そういうのは思っていても口にはしないのが優しさだ』とか『みんな普通痛くても我慢してるのに』とか不機嫌になるから……。  天莉は情事の際、自分は声を出してはいけないと思い込むようになっていった。  無論博視だって男だ。天莉に感じている声を聴かせて欲しいと言ってきたことはある。  でも……。  何をされても気持ちいいと思えなかったから。  天莉は博視とのエッチで、苦痛以外の声を漏らしたことがなかった。  それは博視に、〝天莉は不感症〟〝抱いても面白くない女〟という感情を植え付ける結果になって……。  天莉は、きっとそれが自分が博視に浮気されて捨てられた一因だと思っている。  なので尽と思いが通じ合った時、尽に求められたらどうしよう、また博視の時みたいになったらどうしようと言う不安を心の奥底深くに抱えていた。  尽の強引さに押されるように半ば的。あれよあれよと身体へ触れられる結果になってしまったけれど、まさか声が抑えられなくて泣きそうになるだなんて思いもしなかった。  尽に触れられた時、抑えたいのに()びるような声が鼻から抜けるみたいに漏れてしまったことに、天莉は正直すごく驚いたのだ。  ずっと不感症だと思い込んでいた自分が、まさか気持ちよくて声が抑えられない日が来るだなんて……。  そんな、物語の中のヒロインみたいなことが自分に起きたことが信じられなくて……未知の感覚が怖くてたまらなかった。
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