(17)声を聴かせて?*

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「……わ、私の方こそっ、ごめんなさいっ!」  ――きっと、物凄く心配を掛けたはずだ。 (私、何回(じん)くんの前で意識を失えば気が済むの?)  そう思った天莉(あまり)は、やたらと申し訳ない気持ちになる。  そんな天莉の耳元、尽が「謝らなくていい」と甘やかに(ささや)いて、ふんわり優しく抱き締めてくれて。  その上で付け加えられた、「キミを前にしたら……俺は今回みたいに暴走する気しかしないんだ。だからね、天莉。自戒の念も込めて、入籍を済ませるまで、俺はキミにそう言うことをするのを控えようと思う」と言う言葉に、物凄く驚かされた。  それと同時。 「あ、あの、でも尽くん……」  天莉は『私、貴方に抱かれてもいいと思えるようになれたのにっ』という言葉を発してしまいそうになって、寸前のところで何とか飲み込んだ。  それは、裏を返せば『抱いて欲しい』と同義だと気が付いて恥ずかしかったからだ。  代わりに「入籍はいつくらいになるかな?」と問い掛けた天莉だったのだけれど。 「うちの親への挨拶も要るし……指輪や猫の手配も必要だ。そう言うのを考えると、そうだな。――少なくとも会社主催の親睦会よりは後になりそう、かな……?」  尽がそう返してくれたのを聞きながら、「尽くん、猫は別枠だと思うな?」と苦笑まじりに返しつつも、天莉は何故だか分からないけれどソワソワと落ち着かない気持ちがして。  その胸騒ぎが、悪い意味で当たってしまうことを、当事者の天莉はおろか、尽もまだ知らない――。
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