(18)胸騒ぎ

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天莉(あまり)が俺のモノでない時には(この)ましく思えていたキミのそう言う献身的なところが、天莉のことを本気で好きになった途端、他の人間には尽くして欲しくない、やめて欲しいとか思うようになったと言ったら……キミは引くかね?」 「え……っ?」 「なぁ、天莉。キミは俺の妻になる女性だ。他の人間になんて尽くさなくていい」  そんなことを言って、耳をペタッと寝かせた大型犬のような顔をした(じん)が、切なげに天莉の顔を見詰めて懇願(こんがん)するから、天莉は言葉に詰まってしまう。 「つ、尽くすって言ってもっ。会場にお食事や飲み物を運んだり……そう言うのをお手伝いするだけだよ?」  ややして、やっとの思いでそう告げた天莉だったのだけれど――。 「俺が贈った服で、下働きみたいな真似をするって言うの? 俺の目が届かないところで?」  拗ねたようにそう続けられてしまっては、確かにこの服でそれはないかも?と思わざるを得ない。  そう。  いつもならば天莉、それなりに小綺麗に見える黒のパンツスーツに、白のブラウスを合わせた、割と普段の仕事着に近い服装で親睦会に参加していたのだ。  けれど……。  今日は尽から贈られたくすみ感のあるローズベージュのクラシカルドレスを着ている。  過日ハイブランドのアパレルメーカーで尽からプレゼントされたその一着は、とても着心地の良いレースとシフォンの異素材ワンピースで、デコルテ周りが透け感のある仕様になっている。  肌を薄らと透けさせつつも、首元は低めのスタンドカラーで、胸元が開きすぎる心配もない。  加えてボリューム(そで)がさり気なく二の腕をカバーしてくれるのが、天莉的に嬉しいデザインだった。  確かに尽が言うように、この服で雑用係はちょっと違和感があるかな?と思った天莉だ。  それに。
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