(18)胸騒ぎ

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 (じん)の言動のせいでほんのりと熱を持ってしまった左手を持ち上げられて、薬指の婚約指輪の存在を確認された天莉(あまり)は、「仕事中にはしてないみたいだけど……親睦会の間だけは必ずつけておいて?」と念押しされてしまう。  今日は社内の人間のみならず、社外の人間も沢山入り乱れる会だ。  取引業者だけでなく、『株式会社ミライ』の系列会社の関係者も数多く出席する。  自社の中でならば、長く付き合ってきた恋人に失恋したばかりの天莉に、そんなに不埒(ふらち)な真似を働く人間はいないかも知れない。だが、逆にチャンスだと近付いてくるバカ者がいることも否めないと尽が言って。 「社外の人間まで含めると、誰がキミに言い寄るか、全く想像がつかなくなるのが腹立たしいね」  と、心底嫌そうに溜め息を落とすのだ。  尽は「一緒にいられないくせに着飾らせ過ぎたか……」と眉根を寄せると、「天莉はいつも綺麗だけど、今日は特に気を付けて?」と釘を刺してくる。 「尽くん、心配し過ぎ」  そもそも自社の人間なら、プライベートでは取っ付きにくいと評判の天莉に話しかけることはないだろうに。  余りに尽が心配するから、思わずクスッと笑ってしまった天莉だったのだけれど。 「恋人の心配ぐらいさせて?」  と切なく見つめられて、指輪をはめた薬指をスリスリと撫でられては、恥ずかしくてたまらないではないか。 「今日の天莉を見たら、横野のバカが復縁を迫らないとも限らないだろう? そうしたらこの指輪を見せつけて『間に合ってます』ってキッパリ突っぱねてやるんだよ? 分かったね?」  尽のセリフに、そんなことはないと思うんだけどな……と応えながらも、心の片隅。博視(ひろし)江根見(えねみ)さんと上手くいっているのかな?と、天莉はちょっとだけ心配になった。
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