(18)胸騒ぎ

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 今まで(じん)が上に立って色々やってきて、そういう直情的なところが仕事に支障をきたさなかったのはきっと、直樹の功績が大きいのだろう。  尽の即決力やフットワークの軽さが必要な場面では手を放し、良くないシーンではストッパーになってきた直樹の姿がありありと目に浮かんで、天莉(あまり)は思わず笑ってしまった。 「天莉……?」  そんな天莉に、尽が怪訝(けげん)そうな顔をするから。 「あのね、尽くんには伊藤さんが公私ともに必要不可欠なんだろうなって思ったら……何だか微笑ましくなっちゃったの」 「は……?」  天莉の言葉に尽が不満げな声をもらして。 「そりゃぁもちろん直樹(なお)がいないと困るが……。天莉だってもう、俺にとっては立派にそういう存在なんだと自覚してる?」  ギュッと抱き締める腕に力を込められた天莉は、何も言わずにそんな尽をそっと抱きしめ返した。 ***  (じん)がどうしても譲ってくれなくて、結局会場となるホテルまではタクシーで行く羽目になった天莉(あまり)だ。  天莉としてはいつものように公共の交通機関――バスと徒歩で向かうつもりだったのだけれど。 「ねぇ天莉。今日のキミはいつも以上に綺麗なんだって分かってる? バスなんかで行って……悪い男に目を付けられたらどうするんだ」  と眉根を寄せられてしまった。 「えっ?」  ――そんな心配必要ないと思うんだけどな?  即座にそう返したかった天莉だ。  そもそも尽から贈られたワンピースが素敵過ぎて目立つと言うのなら、上に着慣れたスプリングコートを羽織るつもりで準備していたから大丈夫なのに。  天莉は尽にそう説明したかったけれど……尽の真剣な顔を見たら何も言えなかった。
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