(3)尽からの提案

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 居残っているのが玉木天莉(あのときの女性)とは限らないが、もしそうだとしても妙な気は起こすなよ?と釘を刺されているのだと理解した(じん)だ。  直樹(なおき)は、尽が抱えているも知っているから。  だから余計に心配をしてくれるんだろう。 「俺も一応立場がある身だ。お前が懸念(けねん)しているようなスキャンダラスな事態にはならないよう善処するし、動くときには公的なフォローも出来るよう保険をかけて行動する。だから、な? ――頼むからそんな怖い顔で睨むなよ」  尽が真剣な顔でそう告げたら、直樹が心底呆れたように吐息を落とした。 「なぁ尽よ。それ、もし上にいるのがあの時の女性だったら『俺は行動を起こす気満々だ』と言われてるようにしか聞こえないんだが?」  視線こそ先程よりは緩んで見えるが、困った男め、という心情がありありとにじみ出た直樹のその表情に、尽は小さく肩をすくめて見せる。 (ホント、こいつには隠し事が出来ないな)  上にいるのがもしも玉木(たまき)天莉(あまり)なら……自分はきっと、彼女を(おの)れの事情に巻き込むための算段を練らずにはいられないだろう。 (弱ってるところを狙う方が効率的だしな)  打算的でいやらしい考え方だとは思うけれど、失恋直後の人間が篭絡(ろうらく)しやすいのは(まぎ)れもない事実だ。  いずれ近いうち。何らかの形で彼女にはコンタクトを取るつもりではいたけれど、もし今夜期せずしてその機会に恵まれたなら、躊躇(ためら)うつもりはない。
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