(19)天莉に近付く者たち

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 会場へ入る前にホテルフロントへ声を掛けて手荷物と上着をクロークに預けた天莉(あまり)は、腕時計に視線を落として、少し早く着き過ぎてしまったかな?と思って。  すぐには二階の会場へ移動せず、ロビーでほんの少し時間をつぶすことにした。  窓辺の席へ腰かけて見るとはなしに外を眺めていると、(じん)がいつも使っている黒のセンチュリーがホテルの敷地内へ入ってくるのが見えて、何となくソワソワしてしまう。  別に逃げなくてもいいのだけれど、何だか照れ臭くて。尽に見つからないうちに会場へ移動してしまおうと思ってしまった天莉だ。  収容人数一五〇〇名の大宴会場には、入り口に受付が設けられていて、社名、所属部署、氏名などを告げてチェックしてもらってから、会場内へ入るシステムで。  仕事でいつも使っている名札を付けるよう前もって通達されていたので、『管理本部総務課 玉木』と書かれた札を首に掛けた天莉は、一度だけ深呼吸をして入り口をくぐった。  毎年この時期に開かれる『株式会社ミライ』主催の親睦会は、場内に設置されたフードコーナーから好きな料理を自分で取り分けるバイキング形式。テーブルはあるけれど基本立食の形でのパーティーだ。  会場の壁沿いには椅子がいくつも用意されていて、疲れたらそこへ座れるようになっている。  予定スタート時刻の十時まであと二十分くらい。  矢張りちょっと早過ぎたかな?と思いながら場内を見回せば、思ったより人が集まっていて驚かされた。 (まぁ会に参加する分母自体が大きいもんね)  天莉、いつもは裏方に徹しているので、こんな風に一般参加の雰囲気を味わうのは初めてで落ち着かない。  沢山人が来るのだから、色んな考え方の人がいて当然だよね、と自分に言い聞かせた。
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