(19)天莉に近付く者たち

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 とりあえず一人だけ早くに会場入りして悪目立ちせずに済むことにホッとした天莉(あまり)は、場内をぐるりと見回してから、(じん)が演台前に立ったらすぐに気付けそうな位置へ移動しておこうと思い立つ。  もちろん一介の平社員の身で、余りにも真正面のド真ん中の辺りを陣取るわけにはいかないので、上座側に近い壁際(かべぎわ)(たたず)んでみた。  かなり大勢の人間がひしめき合っていても、尽はきっと誰よりもかっこよくて誰よりもオーラがあるから、絶対にすぐ目を奪われる自信がある。  それでも天莉は一六〇センチには及ばない程度と、そんなに背が高い方ではないから、あんまり長身の人が前をふさがないでいてくれたらいいなと、思って。  ふと無意識にそんなあれこれを思ってしまってから、(ヤダッ。私、滅茶苦茶尽くんのこと好きみたいじゃないっ)と今更のように気が付いて照れ臭くなった。  実際、尽はかなりハイスペックだし、誰から見ても間違いなくかっこいい男性だと思う。  顔も申し分ないほど整っていて、おまけに一八〇センチ越えの高身長。  センスのいい眼鏡をかけていて、どことなく理知的に見えるのが、天莉にはかなりポイントが高い。  声だって、耳元で囁かれたりするとぞくぞくしてしまうほど耳馴染みの良いバリトンボイスだ。  もちろん普段の喋り声も、声を張らなくても周りをしん……とさせてしまう重量感がある。
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