(19)天莉に近付く者たち

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 大企業と言うほどではないが、中小企業というのは烏滸(おこ)がましく思えてしまうような、そこそこ大きな『株式会社ミライ(うちの会社)』にあって、あの若さで専属秘書を(あて)がわれるような役付。  まだハッキリとは分からないけれど、恐らくご実家もかなりの資産家だろう。  そんな、きっと誰が見ても魅力的な(じん)が、どうして自分みたいに何の取り()もない平凡な人間に執着してくれるのかが天莉(あまり)には分からない。  そんな、非の打ち所がないように見える尽だけど、ただひとつだけ。  一緒に暮らしてみて初めて分かったのだけれど、生活能力だけは壊滅的に欠如している。  でも……それにしたって、天莉がちょっと教えれば何だって卒なくこなせるようになってしまう器用さも兼ね備えているのだ。 (教えてあげたらすぐ出来るようになるって分かってるのに……何でかな? 家事に関しては必要最低限のことしか学んで欲しくないって思っちゃう)  秘書で尽の幼なじみの伊藤直樹が、今まで尽にそういうことをさせずにいてくれたことへ、思わず感謝したくなってしまうくらい、天莉の中では大きなこだわりで。  それは、他のことではほぼ完璧。隙が見当たらない尽にとって、少しでも自分がと言う天莉の承認欲求の現れだったりするのだけれど、本人はそのことに気付いていない。  ほぅ、っと我知らず切ない吐息を漏らした天莉に、 「あの、隣、いいですか?」  突然見知らぬ男性が声を掛けてきた。
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