(19)天莉に近付く者たち

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「単刀直入に言わせて頂きますね。――俺、玉木さんがあんまりにも綺麗だったから……その、一目惚れして……それで……」  少しでも話せたらな、と思ってそばまで来たらしい。 「えっ……」  今までそんなことを言われたことがなかった天莉(あまり)はオロオロと戸惑って。 「あ、あの、私……」  しどろもどろにつぶやいて、無意識に名札についた紐をギュッと握った。  沖村は天莉のその手元を見つめて、「あ……」と声をこぼすなり申し訳なさそうな、残念そうな表情(かお)をする。 「……玉木さん、婚約してらしたんですね。すみません、俺、知らなくて」  言われて初めて。天莉は期せずして自分が沖村に、(じん)から渡された婚約指輪を見せつけるような仕草をしてしまっていたことに気付かされた。  尽には男避けのために付けておくように言われていたけれど、もちろん今のは狙ったわけじゃない。 「あ、あの、謝らないで下さい。……えっと、ご指摘のようにわたくし、婚約者がいますので沖村さんのご好意にはお答えすることはできません。ですが……その、声を掛けて頂けてすごく光栄でした。有難うございます」  ぺこりと綺麗な角度でお辞儀をした天莉の所作にうっとりと見惚れた沖村が、「玉木さんには総務課より受付の方が断然似合う気がします」と告げてニコッと微笑んだ。 「えっ」  またしても言われ慣れていない言葉を投げ掛けられた天莉は、瞳を見開いたのだけれど。 「正直、婚約者がいても奪いたくなってしまうような素敵な人だと思います」  連ねられた言葉に、正直戸惑いを隠せない。  それこそ風見(かざみ)課長のように下心モロ出しで言い寄られたならスパッとはねのけることが出来るのだけれど、こんな風に真っすぐな好意を寄せられると、言葉を選ばなければいけない気がしてしまった。  と。 「天莉――」  突然ツカツカと近付いてきた男に名前を呼ばれて、グイッと腕を引っ張られて。 「えっ」  ギュッと握られた腕の痛みに思わず眉根を寄せて、天莉はソワソワと闖入者(ちんにゅうしゃ)を見上げた。
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