(19)天莉に近付く者たち

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 意に添わないことをしたら、博視(ひろし)にとっては上司に当たる父親――江根見(えねみ)部長――に言い付けると言われていたのだって、脅しじゃないのかな?とすら思って。  だとしたら、自分に酷いことをした相手ではあるけれど、博視のことがちょっぴり気の毒にも思えて。 (あー、ダメっ。私ったらまた悪い癖が出てる)  両親から、それは天莉(あまり)の好いところでもあり、悪いところでもあるとよく指摘される部分なのだけれど。  あんなに酷いことをされたのに、何を同情なんてし掛けているんだろう。  そう思いつつも、何となく博視が江根見(えねみ)紗英(さえ)にいいように操られているように思えて、気になってしまうのだ。 (こんなこと(じん)くんにバレたら叱られちゃう)  絶対そうだ。  なのに――。 (妊婦さんのお腹って、一体いつぐらいから目立つようになるんだろう?)  なんて要らないことにまで思いを馳せてしまう始末。  博視にフラれた二月八日(たんじょうび)からおよそ二ヶ月。  あの時には既につわりがどうのと言っていた気がするから、恐らく妊娠初期だったんだろう。 (だとしたら今、江根見(えねみ)さんは何ヶ月目ぐらい?)  ウェストを押さえつけないようなデザインのワンピースを着ているからかも知れないが、紗英のお腹には何の変化も見られない気がして。 (もう少ししたらふっくらしてくるのかな?)  天莉自身、妊娠経験がないので妊娠週数の数え方はおろか、お腹の膨らみ具合いなどもよく分からないけれど、初期の頃はマタニティマークを付けないと周りには気付いてもらえないと聞くし、そんなもんなのよね?と自分に言い聞かせる。  紗英の妊娠を知っている人ばかりじゃないはずだし、むしろ知らない人の方が多いはずだと思った天莉は、何の罪もないお腹の中の赤ちゃんのためにも、そこは私情を挟むのはやめようと思った。
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