(19)天莉に近付く者たち

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「――江根見(えねみ)さん、横野くんから頼まれたから言うわけじゃないけど……その、しんどいことがあったら遠慮なく言ってね」  ここ最近は仕事で関わることはなくなってきたけれど、全く知らない人間じゃない。 「私で役に立てるかどうかは分からないけど……出来ることは協力するから」  常の仕事ではもう関わることはほぼないと思うけれど、社外の人間もたくさんひしめく今日だけは特別。 「ずっとあの辺りにいようかと――」  思ってるし。  さっき沖村と別れた辺りを指さしてそう続けようとした言葉は、言い終わる前に紗英の声にかき消されてしまった。 「わぁ~。ホントですかぁ、先輩(せんぱぁーい)。そうして頂けると物凄ぉーく心強いですぅー。ほら、課長がいきなり、紗英と先輩の仲を引き裂いちゃったじゃないですかぁ。紗英ぇ、先輩とお話出来なくなってめっちゃ寂しかったんですよぅ」  そこで一旦博視(ひろし)が立ち去った方角に視線を向けると、紗英がグッと天莉の方へ距離を詰めてくる。 「博視はぁ~、営業の人脈作りで今日は紗英のそばにずっといられないって言うしぃ~、紗英ぇ、実はすっごくすっごく心細かったんですぅ。……なのでぇ、もし良かったら今日は紗英とずっと一緒にいてもらえませんかぁ?」  天莉(あまり)がちょっと甘い顔を見せた途端、いきなり厚かましくなった紗英にギュゥッと両の手を握られて、天莉は思わず「えっ」と驚きの声を上げた。  だけど、よく考えてみれば自分も誰か話の弾む同僚がいるわけでなし、今日と言う日を持て余していたことに変わりはないわけで――。 「ね、本当に他に仲の良い同期の子とかいないの? ……私なんかと一緒にいるんで、いいの……?」  天莉が恐る恐る問い掛けたら、天莉より十センチくらい背の低い紗英が「今、言ったじゃないですかぁ。紗英はぁー先輩と一緒がいいんですよぅ」と上目遣いで天莉のことを見上げてくる。  その潤んだ瞳に、天莉はほぅっと小さく吐息を落とすと、「分かった。けどひとつだけ――」と切り出した。
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