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「え、えっと……年上の人、だよ?」
しどろもどろに言ったら、「やぁーん。先輩、年甲斐もなく照れちゃって可愛いー♥」と軽く嫌味を言われてしまった。
でも尽のことを思い出すとソワソワとして落ち着かない気持ちになるのは事実だ。
いい年をして恥ずかしくないのか?と問われたら、確かにそうなのかも知れない。
(だって尽くん、本当にかっこいいんだもん。仕方ないじゃない)
相変わらず敵を作る話し方をする子だな?と思いながらも、天莉は心の中でそう反論するにとどめた。
***
そうこうしているうちに時間になったらしく、開会の言葉などが宣言され、親睦会がスタートする。
天莉はさっき沖村と別れた地点に戻って、尽の登壇を待ちたいと思ったのだけれど――。
「先輩。料理取りに行きましょー? 美味しそうなのいーっぱい並んでますよぉ?」
紗英にグイグイ手を引かれて、どんどん演台から遠ざけられてしまう。
さすがに十時も過ぎているし、尽だって会場入りしているはずだ。
舞台裏があるわけじゃない会場の構造からして、このひしめき合う人混みのどこかに尽がいるはずなのに……と思ってしまって、天莉はどうにも落ち着かない。
「あっ、江根見さんっ。そんなに急いだら危ないよ?」
妊婦だというのに、紗英はヒール高八センチはありそうなピンヒールのパンプスを履いている。
せめてもう少しフラットな靴を履いて来ればいいのにと思いながら、天莉は紗英が転びやしないかと気が気ではなくて。
「だってぇ、先輩がグズグズして先導してくれないんだから仕方ないじゃですかぁ~」
まさに猪突猛進。人々にぶつかりながら、小柄な紗英が前を塞ぐ来場者たちを押し退け、掻き分けしながら前進していくのは、どうやら天莉のせいらしい。
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