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天莉は小さく吐息を落とすと、皿を手にしたまま紗英に背を向けて近くのテーブルへ向かった。
立食形式なので椅子こそ用意されていないけれど、そこここに背の高いテーブルが置かれている。
そのうちのひとつへ手にしていた皿を載せたら、
「もぉー、先輩。もしかして図星さされて怒っちゃったんですかぁ?」
言いながら紗英がついて来ている気配がするけれど、天莉は答える気にもなれなかった。
と、天莉のそばへ追い付いてきた紗英が、何故か気泡の上がるグラスを一つ手にしていて。
「もぉー、先輩が紗英を置いて行くからウェイターにコレ、押し付けられちゃったじゃないですかぁ」
紗英が言うように、会場内には宴会スタッフがかなりの人数配置されている。
先ほど取ってきた料理を用意してくれたのも彼らだし、量が減れば補充してくれるのもそういうスタッフのみんなだ。
野菜ジュースやお茶なども自分で汲んで飲めるようにはなっているけれど、炭酸入りの飲み物に関しては気が抜けないようにという配慮から、グラスに注ぎ分けたものを配って歩いてくれるウェイターやウェイトレスがいてくれるのも確かだ。
天莉は毎年バンケットスタッフの手伝いをしていたからその辺は良く知っているのだけれど。
(そんな……。自分から手でも出さない限り無理矢理押し付けられることはないと思うんだけどな?)
例えば「如何ですか?」と声を掛けられて「あ、頂きます」と本人が意思表示をしない限り、スタッフ側から「是非に」と飲み物のごり押しなんてしないはずなのだ。
紗英が手にしている、琥珀色の液体が揺蕩うシャンパングラスを見て、天莉はほぅっと溜め息をついて。
「――江根見さん、妊娠中にお酒は飲めないよね?」
と問いかけていた。
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