(19)天莉に近付く者たち

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(あ、何か食べなきゃ……)  そう思ったと同時、クラリと視線が傾いて。 (あ、れ?)  いくらお酒に弱いと言っても、グラスにたった一杯のシャンパンで、この回り方は異常だ。  テーブルに手を付いて倒れることだけは回避した天莉(あまり)だったのだけれど。  そんな天莉の顔を覗き込むようにして、紗英(さえ)が「あれぇ? 先輩(せんぱぁい)。もしかして酔っぱらっちゃいましたかぁ?」と声を掛けてくる。  『江根見(えねみ)さん、もしかしてお酒に何か入れた?』と問いかけたいのに、クラクラし過ぎてうまく受け答えが出来ない。 (な、んで?)  意識は冴えているのに、身体が言うことをきかないことに、プチパニックの天莉だ。 「わぁー、大変(たいへーん)。誰かぁ、お願ぁ~い、助けてくださぁーい」 「どうしたの?」  わざとらしく騒ぐ紗英の言葉に、近くにいたらしいがすぐに反応してくれて。 「わぁー、博視(ひろし)ぃ、優秀(ゆーしゅー)。ちゃんと紗英のそばにいてくれたんだねぇー? ほら見てぇ? 先輩がぁ、紗英のお()りを頼まれたくせにお酒飲んで潰れちゃったのぉ。でねぇ。紗英は優しいからぁ、先輩に自分のお部屋を貸してあげようと思ってぇ。ほらぁ、さっき話したでしょぉ? 紗英、会場出てすぐのところにパパからお部屋を取ってもらってるって。ねぇ博視ぃ、とりあえずそこまで先輩を運んでくれるぅ?」  目立つからお姫様抱っこは無しだと、紗英が博視に釘を刺している声を天莉はぼんやりした頭で他人事(ひとごと)のように聞いて。 (気持ち悪い……)  身体の自由が全く利かないことも、博視に肩を支えられていることも、不用意に飲んでしまったお酒の回りが、ことも。  天莉は何もかもが納得いかなくて、気持ちが悪くてたまらないと思ってしまった。
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