(20)罠にハメられた天莉

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「ここぉ、妊婦の紗英(さえ)がパパに言って取ってもらっておいたお部屋なんでぇ、先輩、遠慮なくお休みしてくださいねぇ?」  投げ掛けられた言葉はとても有難い内容なのに、何故か含みを感じてしまうのは気のせいだろうか?  博視(ひろし)に支えられて会場近くの控え室のようなところへ連れて行かれた天莉(あまり)は、シングルベッド張りに大きなソファに横たえられて、自分をにっこりとな笑顔で見下ろす紗英をぼんやりと見上げた。 「あー、紗英思ったんですけどね、先輩、香水を変えたのが良くなかったんじゃないですかぁ? 匂いってぇ~合わないと気持ち悪くなったりしますしぃー。なのかも知れませんけどぉ、それ、一応メンズものですしぃ、お高いヤツなんで庶民的な先輩には似合いませんよぅ。あ、そう言えば前にうちの課に高嶺(たかみね)常務がいらしたことがあるじゃないですかぁ。彼も同じ香水だったの、先輩はご存知ですかぁ?」  ふっと一瞬紗英の表情が鋭くなったのを、天莉は見逃さなかった。 (江根見(えねみ)さん、やっぱり私と(じん)くんのこと知ってて……)  紗英は思ったことをすぐ口に出してしまうタイプだったから、こんな風に駆け引きなど出来ないだろうと勝手に思い込んでいた。  でも、天莉のカマ掛けに、あえて紗英がとぼけたフリをしていたんだとしたら……。  今のこの状況は、必然的に引き起こされたものな気がした天莉だ。
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