(20)罠にハメられた天莉

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天莉(あまり)。お前、香水とかつけるタイプじゃなかっただろ? 何、俺と別れた途端バカみたいに色気づいてんだよ。今日の服装だってお前らしくねぇし。――お前は目立たねぇ地味な格好の方が似合ってんだよ」  紗英(さえ)の言葉に、博視(ひろし)が不満げに追い打ちを掛けてくるのが天莉には悔しくてたまらない。  紗英の前では取り繕うように〝玉木さん〟と言っていたのが崩れているのにも気付かない様子の博視に、天莉は(いつまでこの人は私のことを自分の支配下に置けていると思っているんだろう?)と思って。  もう博視とは別れたのだ。  それも、一方的な理由で天莉を切り捨てたのは他でもない博視自身なのに。  今更、何故そんなことを言われなければいけないのか――。  正直な話、元カレの博視が何と思おうと、今、天莉にとって一番大切な人が――そう、他ならぬ〝(じん)が〟――似合うと言ってくれたことこそが全てだ。  博視を睨み付けて、『貴方なんかにそんなこと言われる筋合いはない!』と突っぱねてやりたいのに、うまく言葉が紡げないのが物凄くもどかしい。 (どういう、ことなの?)  とにかく意識はクッキリと冴えているのに、身体の自由が利かない。  ついでに言葉も封じられたみたいに舌がうまく動かせなくて、天莉(あまり)はとても怖いのだ。  今、彼らに何かされても天莉には抵抗する(すべ)がない。  泣きたい気持ちを、『こんな人たちに弱ってるところを見せたくない!』という矜持(きょうじ)がギリギリのところで踏み(とど)まらせている。  天莉は自分を見下ろす二人からフィッと視線を逸らした。 「このお部屋ぁ、鍵も掛けられますけど……何かあった時すぐ開けられないのは困るんでぇ、開けたままにしておきますね?」  そんな天莉にどこか勝ち誇ったみたいに紗英(さえ)の声が投げ掛けられて。 「博視(ひろし)ぃ、行くよぉ?」  博視がまだ何か言いたげに天莉のそばを離れようとしないのを、紗英が引き剥がす気配があった。
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