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床へ転がったスマートフォンを拾い上げる。
たったそれだけの動作が本当に難しくて、ソファから落ちそうになりながら四苦八苦していた天莉は、部屋の扉が開いたことにすら気付けなかった。
「……やった! もう女の子の方スタンバイ出来てんじゃん」
「おっ。ホントだ。今日の子はどんなかなー? 俺、すっげぇ楽しみなんだけど」
「わー、お前、顔がめちゃくちゃ下品になってるぞ」
「いや、それ、お前もだろ」
室内に突然響いた男性二人の楽しげな掛け合いに、ビクッとしたつもりだったけれど、実際は身体が跳ね上がったかどうかすら怪しい。
ノロノロと視線を床から前方へ転じると、視界のうんと端っこに、綺麗に磨かれた革靴が二人分見えた。
そのまま視線を上げる――。
いつもなら難なくこなせてしまうはずのそんな単調な動作ですらやたら労力を要してしまうことに戸惑いと恐怖を覚えた天莉だ。
「ねぇ、キミ。そんなに身を乗り出してたら落っこちちゃうよ?」
「――っ!」
言われて、動けないでいる間に距離を削ってきたらしい男に突然腕を掴まれた天莉は、声にならない悲鳴を上げる。
だけど天莉の怯えなんてお構いなし。
男はそのままソファへ天莉を仰向けに寝かせると、顔のすぐ横に渇望したけど手に取ることの叶わなかったスマートフォンを置いてくれた。
「あ……っ、……っ」
とりあえず助けてくれたらしい人物に礼を述べようと口を開いてみた天莉だったけれど、うまく言葉が紡げなかった。
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