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「うわぁー、まさかと思ってたけど」
そんな天莉を見下ろしていた男が突如驚いたような声を上げるから、天莉は何事だろうと思う。
その理由が知りたくて緩慢な動きで視線を転じた天莉の目の前にいたのは、先程壁際で天莉を口説いてきた男だった。
[沖村、さん?]
声にならない声で男の名をつぶやいてから(どうして彼がここに?)と思って。
紗英はこの部屋は自分が江根見部長に頼んで取ってもらった部屋だと言っていた。
なのに――。
「……やっぱり玉木さんだ。ソファの上にちらっと見えた服装で、もしかしたらって思ったんだけど、また会えるなんて光栄だなぁ。――あっ。けど……よく考えたらマズイのかぁ」
「なになに、お前、この子猫ちゃんと知り合いなの?」
「知り合いっていうか……さっき会場の方でちょっとね。……けどさぁ俺、こんなことになるって思ってなかったから、そんとき彼女に社名とか名前とか色々教えちゃったわけよ」
「マジか。――なぁ、それ、やばくね?」
「やばいよね。どうしよっかなぁ。せっかくお前と二人、危険な橋渡ってこういうお楽しみ用意してもらってんのにな。俺、バカじゃん」
天莉の不安と疑問をよそに、沖村が一緒に来た男と話し始めてしまって。
天莉は一人状況が掴めず胡乱げな視線で男たちを見上げることしか出来なくて。
でも、ただ一つ。
何となくだけれど、今の状況が物凄く良くないモノだということだけは分かったから。
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