(20)罠にハメられた天莉

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 でも、さすがに肩に触れるザキの手の感触に、一気に心が連れ戻されて――。 「い、ゃっ」  声にならない声で抗議したと同時――。 「お前たち、私の部下に何をしている?」  扉が開く音とともに聞き慣れた男の声が響いて。  ザキと沖村(オッキー)が、「、何してんだよ!」と舌打ちする声がした。 *** 「直樹(なお)、すまないが頼みがある」  檀上から降りるなり(じん)がすぐそばへ控えていた直樹に呼び掛けて。  直樹は言われるまでもなく、尽が言わんとする内容を先んじて理解していた。  何故ならば会場に着いてからずっと……玉木(たまき)天莉(あまり)の姿を見かけないのだ。  親睦会のため収容人数一五〇〇名の大宴会場を貸し切っているとはいえ、実際今日ここへ呼ばれている人数はその半数の七百人足らず。  収容可能最大数の半数以下とは言え、その中から天莉一人を探し出すのは確かに至難のわざに思えた。  だが、だからこそ逆に――。  天莉の方から絶対に尽の目に付くところを選んで歩み寄ってくれているはずだという確信があった直樹だ。  天莉の性格からして、目立つ立ち位置にいるはずの尽を見損ねるような場所にいることは考えにくいからだ。  なのに、どこにも天莉がいないのはどう考えてもおかしいではないか。  実際尽の懸念もそれで。  直樹に、動けない自分の代わりに天莉を探して欲しいと言ってきた。 「俺は今日、天莉になるべく俺の目に付くところへいてくれと頼んだんだ。なのにどこにも天莉の姿が見当たらない。もちろんただの杞憂(きゆう)ならそれで構わないが……嫌な予感がしてならない。俺の方は自分で何とかするから。頼む、直樹(なお)、天莉を探し出してくれ」  尽の言葉に、直樹は静かにうなずいた。
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