(20)罠にハメられた天莉

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***  一通り会場内をうろついた直樹は、場内に天莉(あまり)の姿はおろか江根見(えねみ)紗英(さえ)横野(よこの)博視(ひろし)、そうして風見(かざみ)斗利彦(とりひこ)の姿が見当たらないことにも気が付いた。  もしかしたらどこかですれ違ったのかも知れないが、営業部や総務部の集まりの中にも彼らの姿を見出(みいだ)すことが出来なかったのはどこか違和感があって。  仲の良し悪しに関わらず、大抵の場合同一部署の人間は親睦会の際は一塊(ひとかたまり)になっていることが多いのに、社内で浮いている紗英(さえ)はともかくとして、横野や風見がそうしていないのは何だか妙ではないか。  直樹は一旦会場の外へ出て、来場者名簿の出欠席を確認させてもらおうと思って。  室外へ出たと同時、会場から少し離れた部屋の前で、スーツ姿の二人の男と揉める横野博視(ひろし)の姿に気が付いた。 (あれは……確か『アスマモル薬品』の……)  横野が、いま直樹らが在籍している『株式会社ミライ』の親会社に当たる『アスマモル薬品工業』の人間に囲まれているのを見て、直樹はその組み合わせのアンバランスさに眉をひそめる。  ミライの営業の横野が、アスマモの営業と接点があるのはまぁ分かる。  だが横野と話している者達は、確か一人は営業だが、もう一人は開発の方の人間ではなかったか。  故あってアスマモル薬品の方の社員たちのこともある程度把握していた直樹は、パッと見てその異様な組み合わせに不信感を抱いて。  気配を消して三人に近付いた――。 *** 「お前たち、私の部下に何をしている?」  そんな声とともにザキと沖村(オッキー)牽制(けんせい)するようにこちらへ歩み寄ってきた足音に、自分のすぐそばからならず者二人の気配が遠ざかるのを感じながら、それでも天莉は絶望的な気持ちを(ぬぐ)えないままでいた。  だって、この声の主は――。
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